投稿日:2025年12月11日

ステンレス鋼の中厚板材の壁面パネル取り付け構造について

― SUS329J1・t=4.0mm・ビーズブラスト+スタッドボルト溶接の実践知 ―

建築・内装・設備の現場で、ステンレス鋼の壁面パネルは、意匠性・耐久性・清掃性に優れた仕上げ材として広く使われています。
一方で、「どのような取り付け構造にすべきか」「スタッド溶接の歪みで表面が波打ってしまう」といったお悩みも少なくありません。

本コラムでは、当社が実際に製作した
二相ステンレス鋼 SUS329J1・板厚4.0mm・ビーズブラスト仕上げ・M6スタッドボルト溶接・ガラスコート
の壁面パネルを例に、中厚ステンレス鋼の壁面パネル取り付け構造について、技術的なポイントを解説します。


①:なぜ「中厚ステンレス壁面パネル」が難しいのか

ステンレス製の壁面パネルは、薄板から厚板まで幅広い板厚が使われていますが、特に板厚4.0mm前後の“中厚板”は、構造設計・表面仕上げの両面で難しさが出やすい領域です。

設計者や施工者の方から、次のような声をよく耳にします。

・パネルの固定方法でいつも悩む

・裏面にスタッドボルトを溶接したら、表面側に歪みが出てしまった

・ビーズブラストや鏡面仕上げだと、少しの歪みまで目立ってしまう

中厚板は、薄板のように「多少の力で撓ませてごまかす」こともできず、厚板のように「剛性でねじ伏せる」こともできない、いわば“ごまかしの効きにくい板厚ゾーン”です。
そのため、取り付け構造・溶接条件・表面仕上げ・検査のすべてを総合的に考える必要があります。


②:今回の前提条件 ― SUS329J1・t=4.0mm+ビーズブラスト+M6スタッド

今回の事例で用いた条件を整理すると、以下の通りです。

材料:二相ステンレス鋼 SUS329J1

SUS329J1は、オーステナイト相とフェライト相の二相組織を持つ二相ステンレス鋼です。一般的なSUS304と比較して、

特徴①:高い耐食性・耐応力腐食割れ性

特徴②:高強度(引張強さ・降伏強さが高い)

特徴③:強度を生かした板厚の合理化(薄肉化)の可能性

といった特長を持ちます。
今回は板厚4.0mmという中厚板でありながら、十分な強度と剛性を確保しながら、意匠性の高い壁面パネルとして使用しています。

板厚:4.0mmの中厚板

板厚4.0mmは、内外装パネルとしては剛性・強度のバランスが良い厚みですが、一方で、

特徴①:スタッド溶接の熱による局所的な収縮が表面に出やすい

特徴②:ビーズブラスト仕上げによって僅かな歪みまで可視化されやすい

という、加工・仕上げ上の難しさを抱えています。

表面仕上げ:ビーズブラスト仕上げ

表面はビーズブラスト仕上げとし、ステンレスの素地感を活かした微細な梨地のテクスチャーを付与しています。
ビーズブラストは、

特徴①:光を柔らかく拡散するマットな質感

特徴②:高級感のある落ち着いた表情

を与える一方で、下地の僅かなうねりや歪みも陰影として現れやすい、非常に繊細な仕上げでもあります。

取り付け方法:M6スタッドボルト+アングル

壁面への取り付けは、パネル裏面にM6のスタッドボルトを溶接し、そこにアングルをボルト止めして下地に固定する構造としています。
表側には一切ビスやボルト頭を出さず、きわめてクリーンなフラット意匠を実現する手法です。

表面保護:ガラスコートによる耐指紋対策

仕上げの最終工程として、ビーズブラスト面にガラスコート(ケイ素系の透明膜)を施し、耐指紋性・防汚性・メンテナンス性を高めています。
これにより、ビーズブラスト特有のマットな質感を損なうことなく、日常の汚れから表面を守ることができます。


③:壁面パネル取り付け構造 ― スタッドボルト+アングル方式

ここで、今回採用したスタッドボルト+アングル方式の基本構造を整理します。

構造①:パネル本体(SUS329J1 t=4.0mm)

表側:ビーズブラスト仕上げ+ガラスコート。
裏側:スタッドボルト溶接用の下地面。

構造②:M6スタッドボルトの溶接

裏面に所定の位置・本数でスタッドボルトを溶接し、後でアングルを取り付けるための“足”とします。

構造③:アングル・ブラケットの取り付け

スタッドボルトにアングルをボルト止めし、そのアングルを通じて壁面下地(軽量鉄骨、チャンネル、インサート、アンカーなど)に固定します。

構造④:壁面への最終固定

長穴・スペーサー・ワッシャーなどを用いて、現場で通り・レベルを調整しながら最終固定します。

この方式のメリットは、

・表面にビスやボルト頭が出ないため、クリーンなフラット意匠が実現できる

・現場で微調整しやすく、大型パネルや高所施工にも適している

・将来のパネル交換・メンテナンスにも対応しやすい

一方で課題となるのが、スタッド溶接による熱歪みが表面に響きやすいという点です。
次章では、この歪みをいかに抑えこむか、その考え方を説明します。


④:溶接歪みを表側に出さないための考え方

考え①:熱入力を必要最小限+全体バランスで考える

スタッドボルト溶接は、一点に高い熱を瞬間的に加えるプロセスです。
そのため、溶接部周辺の局所的な収縮が発生し、結果として
表面側に“うっすらとしたリング状の歪み”が現れてしまうことがあります。

これを防ぐには、次の2点が重要です。

・一本あたりの熱入力を必要最小限に抑えること

・溶接位置・順序を工夫し、板全体としてバランス良く変形させること

考え②:スタッドボルトの本数・配置設計

スタッドボルトの本数を単純に「多ければ安心」と考えて増やし過ぎると、その分だけ歪みのポテンシャルも増加します。
パネル設計段階で、次の観点から配置を検討します。

・パネルサイズ・重量・使用環境に対して必要十分な支持点を確保する

・荷重分散と板剛性のバランスを考慮し、過剰な本数を避ける

・周辺部だけでなく中央部にも適度に配置し、板全体の“引き込み方”を安定させる

考え③:溶接順序と板の拘束条件

溶接順序は、歪みの方向性を左右する大きな要因です。

・一方向に連続して溶接すると、その方向へ板が引き寄せられやすい

・対角線上の位置を交互に溶接し、変形を相殺するような順序が有効

さらに、溶接時の拘束条件(クランプ・治具)も重要です。
板を過度に締め付けると、溶接後に拘束を外した瞬間の“跳ね返り”が大きくなる場合があります。
板の自然な膨張・収縮をある程度許容しつつ、“暴れすぎない程度に抑える”拘束条件が理想です。

当社では、SUS329J1・t=4.0mmのような中厚板に対して、
過去の試作・検証から得られた溶接条件・治具構成をもとに、表面側に歪みを出さないプロセスを確立しています。


⑤:ビーズブラスト仕上げで「歪みなし」を実現するために

ビーズブラスト仕上げは、ステンレスの素地を柔らかく見せる美しい仕上げですが、同時に最も誤魔化しが効きにくい仕上げでもあります。ロール目や下地のうねり、溶接歪みなど、通常であれば目立たないレベルの凹凸が陰影として浮かび上がります。

今回、二相ステンレス SUS329J1・t=4.0mmにビーズブラスト仕上げを施し、裏面にM6スタッドボルトを溶接したにもかかわらず、
表面側には溶接歪みが現れず、非常にフラットで美しい外観が得られました。

その背景には、次のようなポイントがあります。

ポイント①:下地管理と工程順序の設計

スタッド溶接 → 必要な下地調整 → ビーズブラスト → ガラスコートという工程設計により、
どの段階で歪みが生じるかを常に把握しながら仕上げています。

ポイント②ビーズブラスト後の斜光検査

斜めから光を当てて、表面のうねり・歪みを目視確認し、許容範囲に収まっているかをチェックします。

ポイント③:不具合のフィードバックと条件の更新

万一、僅かな歪みが見られた場合は、スタッド配置や溶接順序を再検討し、次ロットの条件に反映するサイクルを回しています。

こうした「下地から最終仕上げまでを一気通貫で見通す視点」があって初めて、
ビーズブラストのように厳しい仕上げであっても、歪みのない美しい壁面パネルが実現できます。


⑥:ガラスコートによる耐指紋性と美観維持

壁面パネルは、人の手が触れやすい位置に設置されることも多く、指紋・皮脂汚れは避けて通れません。
特に中厚ステンレスの大型パネルは、一度汚れてしまうと清掃に手間がかかる場合があります。

今回の事例では、ビーズブラスト仕上げのSUS329J1パネルにガラスコート(ケイ素系透明膜)を施し、

・指紋の付きにくさ(付着しても目立ちにくい)

・汚れの拭き取りやすさ

・表面保護による長期的な美観維持

を実現しています。

ガラスコートは高い透明性を持ち、金属の質感を損なうことなく、
ビーズブラストの柔らかな光の拡散をそのまま残しながら、“見えない保護膜”として機能します。
公共空間や商業施設など、清掃頻度と美観維持の両立が求められる環境にとって、非常に相性の良い仕上げです。


⑦:設計・施工で押さえておきたいポイント

最後に、設計者・施工者の方が中厚ステンレス鋼の壁面パネルを検討する際のチェックポイントを整理します。

ポイント①:板厚と材料選定

中厚板では、板剛性と溶接歪みのバランスが重要。SUS329J1のような二相ステンレスは、高強度・高耐食性の観点から有力な選択肢となります。

ポイント②:取り付け構造

スタッドボルト+アングル方式は、表面意匠を守りつつ施工性・メンテナンス性を両立できる実績ある構造です。

ポイント③:溶接歪み対策

スタッド本数・配置・溶接順序・拘束条件を最適化し、表面側に歪みを出さないよう計画します。

ポイント④:表面仕上げと検査

ビーズブラスト仕上げはわずかな歪みも見せる仕上げであることを前提に、下地管理と斜光検査を丁寧に行います。

ポイント⑤:表面保護とメンテナンス

ガラスコートなどのコーティングを組み合わせることで、耐指紋性・防汚性・長期美観を向上できます。


⑧:中厚ステンレス鋼の壁面パネル構造についてのご相談

「中厚ステンレスパネルを採用したいが、取り付け構造や歪みが心配だ」
「ビーズブラストなど高意匠仕上げと、スタッド溶接構造をセットで相談したい」
「ガラスコートを含めたメンテナンス性までトータルで設計したい」
そのようなお悩みがありましたら、図面の有無にかかわらず、まずはお気軽にご相談ください。

ご相談の際は、次の情報をお知らせいただくとスムーズです。

・パネルのサイズ・枚数・板厚・材料(例:SUS329J1 t=4.0mm)

・設置場所・使用環境(屋内/屋外/沿岸/プラントなど)

・希望する表面仕上げ(ビーズブラスト/ヘアライン/鏡面など)

・求める機能(耐指紋性・防汚性・防眩性・耐薬品性など)

・想定される取り付け条件(下地の仕様・施工方法・施工スペースなど)

当社では、「素材選定」「取り付け構造」「機能性研磨」「表面保護」を一体で設計することで、
美観と機能を両立した中厚ステンレス鋼の壁面パネルをご提案いたします。

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